音楽喫茶 山

遠い昔の記憶の中に、奈良県橿原市国道24号線沿いに「山」という喫茶店がある。
2連ガレージ(縫製工場だったらしい)を改造した素っ気ないたたずまい。
向かって左がJAZZ、(看板にはポピュラー喫茶なんてかいてあるけど)
右がCLASSICが聴ける店。
閉まっている時はシャッターが下りている。


看板が出ているが、果たして、今の若者が近づく気になるかどうか。
廃屋、幽霊屋敷の趣がないとは言えない。


しかし、左右どちらのドアから入っても、私が通った頃は
それぞれ垂涎のスピーカーで音楽を鳴らしていた。
今、思い返しても、その時の音を上回るのはBasieくらいではないか。


むこうは乗り気だったかどうかは知らないが、
時々親友も誘った。

学生時代の嫁とも何度か行った記憶がある。
嫁もそれを覚えていたから、
久々にその「山」の看板に明かりが灯ったところを見た事を
私に報告してくれたのだろう。


早速、今日は「山」へ寄り道した。
子供が車に同乗していたので、
残念ながら
店の様子を覗き、
新しい主人(息子さん)と立ち話しただけ。


(写真は同店のHPより拝借)


この店に出会うまでは日本橋のオーディオショールーム
JBLの音はどうの、ALTECの音はこうの、など、
店員さんと談義していたが、
ここのJBLの音と言えば、そんなメーカーの癖などなく
ベールを数枚剥いだようなクリアな音。
メーカーの癖はネットワークから来るのか・・これは感じる・・
マルチアンプで鳴らすと消えるのか・・未確認・・



JBLと言えばもちろんBasieだが、
LUX-Kitのアンプでマルチドライブされた、
ここの4530(2205+2440+2309+2310+2405)はすごかった。


さらにその前にアンプがパイオニアM-22とM-25であったころ、
もっとすごかった。


ピアノの音は、
その骨格が鉄製フレームと木で構成されており、
弦をフェルトで巻いた木製のアーム+ハンマーで叩くという、
一連の動きがまぶたに浮かぶような情報量の豊富さ。


LUX-Kitに変わってから、ちょっと音が上ずり、
平面的になったように思う。


M-22、M-25は既製品だが、
主人の手により何らかの改造が加えられていたと思われる。

4530はバックロードホーンだとか、PA用だという先入観は持たない方が良い。

音楽喫茶というだけあって、会話は2の次にすべきお店なのだが、
ここのご主人はおしゃべり好きで、話しかけてもいいかな?どうかな?って
いつも遠巻きに私の事を観察されておられた。


しかし、Lux-Kitの配線をされている時に限っては、
私に背を向け、一生懸命半田ごてを動かしておられた。
背中が、「今日は話かけんといてな」と言っているように感じた。


やがて、基板が収まったそのシャーシは純銅製に置き換えられていた。


製作中のアンプの中を覗き込むと、
電解コンデンサのビニールのカバーが全部剥がされているのが目に入った。
抵抗はすべて進工業、線材は銅単線がお好みだったなぁ。



私の作るアンプは真空管だが、
別段、真空管というデバイスに特別なこだわりがあるのではない。
CR類へのこだわりも、別段ない。電解コンデンサー大好き(安いから)である。
20W以上の大出力が欲しければ、やはりトランジスタになるのかもしれないが、
2W(45)〜5W(300B)程度でなんとか音楽は聴ける。


もっともトランジスターに手を出さないのは、


小学校の時に試した感光基板の製作がサッパリの出来だったのがトラウマとなり
あんな作業もう、絶対にしたくないというだけのことである。
FETの出力トランス付きシングルなんて興味あるけど・・・


 エッチングがうまく行かなかったのだが、
 高1の息子がクラブで基板を作る時は削出しで模様(ライン)を出すそうである。


いずれにせよ、
トランジスターアンプの「山」は良かったし、Basieは、良い。
使用機器がブランド品のJBLだから、というのをどちらも超越している。
4343を置いているだけ、Paragonを使っているだけという店ではない。


さきほどネットで調べると先代ご主人は2008年にお亡くなりになったらしい。おつくりになったレシピではココアが美味かった。
バンホーテンココアを鍋に入れ一生懸命かき混ぜている背中を見せられれば、それだけで美味く感じるではないか。
で、実際に美味かった。


そのココアはもう飲めない。
そして、写真に写っていないように、もう、あの4530を聴く事はできないようだ。(大泣


今は息子さんが店に立っておられる。
音も・・・・悪くないと思う。


今度一人で、独身時代のようにふらっと「山」を訪ねたい。